David Duchovny Interview
Interview by Jim Fryman
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人生は不思議なことだらけ。僕が俳優をやっているのもその一つさ。
当分続く予定の「X-ファイル」、今後次々と謎が明かされていくと思うと、日本での放送は終わってしまったのが、とても残念。
さて、この「X-ファイル」は、ニューヨーク生まれのインテリ、デヴィッド・ドゥカヴニーの人生を、ガラリと変えてしまった。東部の名門校イエール大学で英文学の学位を取った彼は、安定した収入を求め、教師になるべく、大学院で博士課程の勉強をしていた。しかし、在学中に興味を持った俳優業に手を出し、勉強の傍らオフ・ブロードウェイの舞台に立つようになり、遂には勉強を途中で放り出してしまったのである。
以来、「ツインピークス」「チャップリン」「ベートーベン」「ドリーム・ガール ママにはないしょの夏休み」で着実にキャリアを積み、ケーブル局で放送された「ザ・レッドシュー・ダイアリーズ」では主役まで務めている。日本では「X-ファイル」が始まるまで、ほとんど無名に近い存在だったが、アメリカではそこそこ知られた俳優だったわけだ。
もちろんエミー賞主演男優賞をもたらした「X-ファイル」以来、デヴィッドは世界中の女性視聴者達に、最も好感をもって迎えられる男性スターのひとりとなった。
「X-ファイル」はあなたの人生を変えたと思う?
DD: うん、そりゃ変えたよ。色んな面で言えるけど、中でも僕を有名人にしてくれたというのが一番大きいかな。人の人生において、有名になることほど大きな変化は他にないんじゃない?
有名になるってどういう気分ですか?
DD: 世論を動かしたり、何かをやり遂げたりする為にその立場を利用している人ならともかく、単にテレビ番組に出ているからというだけで有名になった人間にとっちゃ、有名であるというのは辛いことだね。
世間から詮索されて、あなたの生活はどういう影響を受けていますか?
DD: 腹立たしいね。まず、僕は詮索されるべき人物じゃない。確かに僕は有名だけど、だからどうした?って感じさ。僕はただの俳優で、あの役を演じているだけ。バカげた理由で注目を浴びてるんだと感じて、ウンザリすることもあるんだ。詮索されるのって、鬱陶しいよ。
あと、他人から詮索されると、自意識過剰になるね。世間はとても奇妙に反応してくるんだ。もちろんいいこともあるよ。何かをくれたり、何か親切なことをしてくれたりね。大抵の人達は僕をちやほやするから、こっちは、しっかりと地に足をつけて、自分は昔と同じ人間なんだと自分に言い聞かせなくちゃいけないんだよ。
番組が始まって直ぐにそういうことに対処しなければいけなかったんですか?
DD: カナダで撮影してたから、それほどじゃなかったね。むしろ昔は他人に気付かれたかったよ。気付かれてるってことは、視聴率のバロメーターになるから。「僕が誰かってことにみんな気付いているらしい。ってことは彼らが番組を観てるってことだな」って考えられるだろう?
それがいつ悪夢に変わったんですか?
DD: 別に悪夢に変わったわけじゃないさ。ただ、有名になるとはそういう目に遭うということだった、というだけさ。他人よりも酷い目に遭ってるっていうわけじゃないしね。たぶん童貞を失うのと同じようなものじゃないかな。有名になる前は「有名になっても僕は大丈夫」と想像していても、いざ有名になったら、自分がどんなに分かっていなかったのか、思い知らされるのさ。
人に気付かれた一番奇妙な場所はどこですか?
DD: たぶん、ジムで裸のままシャワーから出た時だね。あれは奇妙なタイミングだったよ。あれは3年前かな、タオルを取ろうとシャワーを出たら、「あ、デヴィッド・ドゥカヴニーだ!」って呼ばれてネ。
多くの雑誌で、あなたがバンクーバーを嫌っていると報道されましたね。
DD: 「ヴァニティ・フェア」誌はそう報道しなかったが、「ディテイル」誌はそう報道していたね。会話の成りゆき上、バンクーバーについてジョークを言ったはいいが、活字になった記事を見て、今度からこういうことをジョークにしないでおこう、って思ったさ。だけど、こういったことから人は学ぶのさ。去年カナダに行った時にプレスは僕に対して冷たかったねぇ。
カナダの天気が嫌だから、ロスに移りたいって言ったんですよね?
DD: いや、天気は別に問題ないよ。あれはただ、「天気の話?オーケー、話そうか」って軽い気持ちで話しただけだったから、バンクーバーを離れる理由は天気なんだと決めつけられたのは、辛かったね。あれは自分たちが何かを失うと焦った市民が勝手に問題にしたんだよ。
モルダーに何か忠告するとしたら何を言いたいですか?
DD: ピストル・ケースを足首につけとけって言いたいよ(笑)。あいつはいつもピストルをなくすんだから。
毎週日曜日(アメリカの放映は毎週日曜)には「X-ファイル」を観るんですか?
DD: 毎週は観てないけど、殆ど観てるよ。
あなたの奥さんティア(・レオーニ)は、番組を観て楽しんでいると言ってましたが、観る時は彼女と一緒に?
DD: ティアはあの番組を観るのが好きだね。彼女がいるから僕も観てるって感じだよ。お陰で昔よりも観るのが楽しくなったね。
自分が出てなくても観ていたと思いますか?
DD: さあね、観てないと思うよ。番組自体は好きだけどね。
人生で色々な事ができるというのは、恵まれたことでもあり、不幸なことでもある。
俳優になる前に、あなたが作家になりたがっていたというのは有名な話です。何を書きたいと思ってたんですか?
DD: 僕の人生プランは教師をしながら作家になるってことだったけど、それは、生活費を払うために堅実な仕事を持つんだったら、教職が一番かなって思ったからだったんだ。で、暇な時に何か書けばいいと思っていたんだよ。
何を書くつもりだったんですか?
DD: 自分でもまだ分からなかった。ただ、何か書きたいと思っていたんだ。多分、小説かな。
今も書きたいですか?
DD: もちろんさ。
ですが、今は俳優、しかも有名人ですよね。
DD: 人生っていうのは不思議なことだらけなのさ。人生には、自分が計画した通りには進まないことがある。これもそのうちの一つだよ。
駆け出しの頃は、コマーシャルの仕事をしてお金を稼いでいたんですよね?
DD: そう、それがキャリアのスタートだったね。役者をやるようになったきっかけはというと、イエールにいた頃に遡るんだ。当時、小説を書こうとしたけど、自分には無理だって分かってね(笑)。で、劇を書こうと思ったんだけど、劇を書くためには演技について学ぶ必要があると思ったんだよ。
それで演劇学校に通うようになり、少しずつ演技について学んでいって、今度はニューヨークで演劇学校に通うようになったんだけど、気がついたらこうやってインタビューを受けるようになっていたのさ(笑)。
自分が職業として真にやりたいのは俳優なんだ、といつ気がつきましたか?
DD: これだ、と思ったことは一度もなかったね。人生で色々な事ができるというのは、恵まれているとも言えるし、不幸だとも言えるよ。色々な事ができるということ自体は恵まれているけど、どちらが正しい道なのか、決して分からないというのは不幸なことだと思う。
「もう充分だ」と言って俳優業をやめようと思ったことはありませんか?
DD: もちろんあるよ。俳優という仕事には素晴らしい面も沢山あるし、僕はこの仕事が好きだけど、好きなことをやっていくためには、ビジネスで嫌でもやらなくちゃならないことがあるからね。
ティアのことを彼女!と思ったものだよ。
あなたは長い間ハリウッドで独身を通してきましたが、もっと早く誰かと結婚していれば・・・と後悔したことはありませんか?
DD: ないね、いい人を見つけたと思ってるから。もしもっと前に結婚していたら、ティアと出会ってなかっただろうし、彼女と今一緒にいなかっただろうからね。時々、もっと前にティアと知り合っていたら・・・と思うこともあるけど、そんなの考えたって意味のないことだよ。
あなた達は「トゥナイト・ショー」に出る前のオーディションで初めて会ったんですよね?ティアは自分がノン・ストップで話したんで、あなたに嫌われたと思ったそうですよ。
DD: 確かにムッとはしてたけど、嫌いになるほど彼女のことを知ってたわけじゃないからね。彼女がこの話を自分から他人に話したなんて、ビックリだな。この話はするな、っていつも僕に言ってたのに。これで彼女がどんな風に話すか分かっただろう?あのミーティングでも彼女はこんな風だったんだよ。
あなたは彼女に何ヶ月もの間、毎日プロポーズしていたそうですね?
DD: そうさ。だけど彼女を手に入れたわけだから、今はもうプロポーズしてないよ、もちろん!(笑)「
トゥナイト・ショー」で何が起こったかというと、当時の僕達はまだ全然有名じゃなかったから、ショーに出るためにオーディションを受けなくちゃいけなかったんだ。僕達は野蛮な理由で番組からオーディションに招かれたんだよ。他人の前に2人とも座って、会話術を駆使してアピールしなくちゃいけなかったわけだけど、変な感じだったね。パフォーマンスをしなくちゃいけないけど、やり過ぎちゃいけないんだ。その時のティアは本当にチャーミングで、積極的で、面白かったよ。僕の正反対だった。
結局彼女が選ばれてショーに出て、僕は出れなかったんだから、腹が立ったねぇ。あの後、彼女の名前を聞く度に(ウーッと唸って)「この彼女め!」って思ったもんさ(笑)。
その関係がいつ変わったんですか?
DD: 僕の知らないうちに、彼女が僕の所属するエージェントについてからだね。ある日、退屈してたんでバンクーバーからエージェントに電話をかけたら、電話に出たエージェントが「今、ある人と話をしてるのよ」って言うんだ。「え?誰と?」って訊いたら「ティア・レオーニよ」って言うじゃないか。2人はオフィスで座って話をしてたんだよ。
それを聞いて僕は(目をグリグリ動かす)ビックリさ。だから僕はエージェントにこう言ったんだよ、「(ティアが喋り過ぎて)きっと君は口を挟む間もないんだろうね」って。それを聞いたティアが「彼は私のことをある理由で嫌ってるのよ」って説明して、「彼はゴルフをするの?」ってエージェントを通して訊いてきたんだ。僕は正直に「教えてもらったらできると思う」って答えたよ。それが始まりだね。
実際に最近僕は、ゴルフを習い始めたんだ。今回も、バケーションでゴルフをやって戻ってきたばかりでね、僕の手は切り傷とまめだらけだよ。
ゴルフのスコアはいくつでしたか?
DD: なかなか良かったね。スコアは101だったんだけど、初心者にしてはかなりいい方だと言われたよ。
あなたより自分の方がずっと上手い、とティアは言っていましたよ。
DD: それは本当だな。
だけど、すぐにあなたは追いつくだろう、とも言っていました。
DD: うーん、それはどうかな。とにかく彼女は凄く上手いよ。遠くまで飛ばすことができるんだ。ロング・ヒッターだね。妻の方が自分より上手くても、声をひそめて「僕はまだ始めたばかりだから」なんて周りに言い訳するわけにはいかないんだよな。ちっともかっこいいことじゃないからね。
彼女がボールを打つ度に、男達はその距離に驚いて彼女の元に集まるんだ。片や僕にはそんな注目は集まらない。辛いモンだよ。彼女は男を負かすことが好きなのさ。しかも、それでどんなに僕が惨めな気持ちになるのか、分かってないんだ。男達より長い距離を打つことで、僕の人生が哀れになるはずがない、って思ってるんだよ。
ゴルフが原因でケンカするカップルっていると思います?
DD: いると思う?可能性はあるだろうね。今はまだ始めたばかりだけど、今後、僕の方が彼女より上手くなるかもしれない。反対に上手くならない可能性だってかなりあるわけだけど、大丈夫、僕は上手く対処できるよ。僕は昔から運動が得意だったんだ。
彼女もそうなんだけどね。下手であることに甘んじるような僕じゃないけど、もしかしたらゴルフは僕向きのスポーツじゃないのかもしれないね。ホント、難しいんだよ。
バケーションにはどこに行ったんですか?
DD: ハワイさ。
結婚してから初めてのバケーションじゃないですか?
DD: そう、初めて一緒にとったバケーションだよ。いつもは、ティアがバケーションをとれる時に僕にはニューヨークで「サタデー・ナイト・ライヴ」に出る仕事が入ってる、という風にすれ違いだったからね。
じゃあ、これはまさにハネムーンと言っていいんですね?
DD: そうだね。ハネムーンだっていう自覚はなかったけど、そう呼んでもいいかな。実に素晴らしいバケーションだった。
ティアと一緒に仕事をしたいと思いませんか?
DD: したいさ。ただ、一緒にやるなら、完璧なものじゃなくちゃ。ちょっとキュートな映画がいいんじゃないかな。具体的に、どういうものとは言えないけどね。
ティアはとても面白い人ですよね。あなたも面白い人だとティアは言っていました。
DD: 彼女は場を明るくするんだ。僕は彼女とは違う意味で面白いんじゃないかな。彼女の面白さが僕は好きだよ。面白いことが、彼女の魅力の一つだね。彼女が出ているコメディの自然な面白さも大好きなんだ。凄く刺激を受けるよ。
彼女はあなたの仕事について批評しますか?
DD: 僕達はお互いに対してオープンだから、相手がどう感じているのか、すぐに分かるよ。でも、彼女は優しいから、大ウソをつく(つまり、良かったとウソをつく)か、良かったと言うか、のどちらかなんだ。
本は沢山読みますか?
DD: え?何?沢山物を食べるかって?(笑)
いいえ、沢山本を読みますか?って訊いたんですよ。あなたは大食いなんですか?
DD: バケーション中は馬のように食べてるよ(笑)。
あなたのことを肥っていると言ったわけじゃないんですが。
DD: その質問気に入ったよ。「大食いなんですか?」か。
ティアは今もキッチンを焦がすことがあるんですか?
DD: いや、そんなことはもうしないよ。
どのように焦がしてしまったか、彼女は長々と話してくれたんですが・・・
DD: ティアは料理が上手いよ。確かに一度は焦がしたけど、僕は食べ物に
うるさくないからね。
あなたはその焦げたものを食べたんですって?
DD: ああ、食べたよ。彼女が作るものなら何でも食べるさ。でも、言っておくけど、ティアの料理はうまいんだぜ。
しかも、あなたは沢山食べるんですよね?
DD: バケーションの時だけだって!(笑)
「X-ファイル」に出ている限り、映画のために時間をさくのは難しい。
「プレイング・ゴッド(原題)」の結果にはガッカリしましたか?
DD: いやいや。確かにいつだって誰もに自分の作品を好きになってほしいし、ビジネスの点からすると沢山の興行収入をあげたいけど、「プレイング・ゴッド」は7500万ドルもの超大作ってわけじゃなかった。それなのに、テレビ・スターが大作に挑戦した映画、という風に宣伝をされてしまってね。600万~700万ドル程度で作られた作品だったのに、だよ。飢えた狼どもに、「ホラ、これがデヴィッドが映画スターになろうと狙った作品ですよ」って投げ与えられてしまったんだ。
僕は小さな作品に出たくてこの映画に出ただけだったんだけど。ただ、これで教訓を学んだよ。何かの分野で大スターになった人は、どういうものに出ようと、その作品が超大作であるという風に宣伝しなければならないってことをね。
それに、僕がこの映画にかけた時間は充分じゃなかったということにも気がついたんだ。しかも残念なことに、この番組の仕事を続けている限り、そういう時間を作ることは難しいんだよ。「X-ファイル ザ・ムービー」の場合は既に役作りが出来てるから、そういう問題は起こらなかったけど、他の映画の場合は難しいね。
「ER/緊急救命室」や「シカゴホープ」といった番組なら、主演が大勢いるから、1人の出番が少ないけど、「X-ファイル」はそうじゃない。だからこの番組に出ながら映画の仕事をするというのは、とても難しいことなんだ。批評も「彼は映画スターになることを狙ったが、映画は面白くなかった。天狗になっていた彼の鼻をへし折ってやろう」とか「彼は小さな作品に出たが、全然ダメだった」といった調子だったから、悲しかったよ。だけど僕にはどうしようもないことだからね。
end